横手市の未来を考える – 人口問題と向き合う
このレポートでは、横手市が直面している「人口問題」について、さまざまなデータをもとに、いろいろな角度から分析し、未来に向けた具体的なアイデアを提案します。横手市で起きている人口減少は、ただ数字が減っているというだけでなく、地域経済の縮小や、社会を支える仕組みの揺らぎ、そして地域のつながりの希薄化といった、横手市の未来そのものが問われている、根深い問題なのです。
分析にあたっては、国勢調査などの公式データを使って「今」を客観的に見つめると同時に、市が作成した「人口ビジョン」や「総合戦略」といった計画書を読み解き、市の考えや取り組みがうまくいっているのかを検証します。この二つの視点から、現状の把握、原因の深掘り、これまでの取り組みの評価、そして具体的な解決策の提案というステップで話を進めていきます。
ご存じの通り、秋田県は全国で最も速いスピードで人口減少と高齢化が進んでいる地域です 。その厳しい状況は、もちろん横手市にも大きな影響を与えています。しかし、このレポートでは、県全体の大きな流れをふまえつつも、横手市が持つ独自の魅力や可能性にスポットライトを当て、横手市ならではの解決策のヒントを探っていきます。
1.数字で見る横手市の「今」
この章では、まず大きな視点から横手市の人口がどうなっているのかをデータで確認し、問題の大きさや特徴を明らかにしていきましょう。
1.1. 人口減少のこれまでとこれから
横手市の人口は、長い間、ずっと減り続けています。市の記録によると、平成元年(1989年)に117,357人だった人口は、その後一度も増えることなく、減り続けてきました 。最近はそのペースが速まっており、令和2年(2020年)の国勢調査では85,555人 、そして令和6年(2024年)には、ついに8万人を割り込んでしまいました 。
もしこのままのペースで減り続けると、未来はさらに厳しいものになります。ある専門機関の予測では、横手市の人口は2070年にはわずか28,508人まで減ってしまうとされています 。これに対し、市は「横手市人口ビジョン」の中で、これから行うさまざまな取り組みが実を結ぶことを願って、2070年の目標人口を40,272人と設定しました 。
ここで注目したいのは、市の目標(40,272人)と、専門機関の予測(28,508人)との間に、約12,000人もの大きなギャップがあることです。この差は、市がこれから実行する政策によって達成しなければならない、とても高いハードルを越えなければならないことを意味しています。このギャップがあるからこそ、私たちは真剣に、そして早急に、効果的な対策を考えていかなければならないのです。
1.2. 年齢バランスの崩れ:超高齢化社会という現実
人口の数が減るだけでなく、その中身、つまり年齢のバランスも大きな課題を抱えています。秋田県全体では、2045年には65歳以上の高齢者の割合が5割を超えるという、世界でも例のないレベルの超高齢化社会になると言われています 。横手市もこの大きな流れの中にあり、市の健康診断のデータなどからも、高齢化が着実に進んでいることがわかります 。
社会の働き手の中心である生産年齢人口(15~64歳)が急激に減り、社会保障サービスを受ける側である高齢者が急増するというこの構造の変化は、いろいろな問題が同時に起こる、複雑な危機です。具体的には、税収が減る一方で社会保障費は増えるという財政的なプレッシャー、働き手不足による地域経済の停滞、そして地域のお祭りや文化の担い手がいなくなることによるコミュニティの活力低下が、一度に押し寄せてくるのです。ですから、横手市の人口問題は、単なる「数」の問題ではなく、社会のあり方そのものを変えてしまう「構造」の問題として捉える必要があります。
1.3. 周りの街と比べてわかる、横手市の立ち位置
横手市は、秋田市に次いで県内で2番目に人口が多い都市で、地域の中心としての役割を担ってきました 。その中心的な役割は、昼間と夜間の人口比率からも見て取れます。2020年のデータによると、横手市の昼夜間人口比率は102.29で、100を超えています 。これは、周りの市町村から仕事や学校のために人が集まってきていることを意味します。お隣の大仙市(98.85)が100を下回っているのと比べると、横手市が地域における経済や教育の中心としての機能を、ある程度保っていることがわかります 。
この事実は、一見すると横手市の強みに思えます。しかし、人口全体が減り続けているという厳しい現実と合わせて考えると、別の側面が見えてきます。それは、「横手市は『働く場所』『学ぶ場所』としては選ばれているけれど、『住む場所』『暮らし続ける場所』としての魅力を失いつつあるのではないか?」という、深刻な問いです。市外から多くの人が働きに来るのに、市内に住む人、特に若い世代が外に出て行ってしまう。この「拠点としての魅力」と「住む場所としての魅力の低下」という矛盾した状況が生まれています。問題の核心は、単に仕事がないということだけではなく、「働く魅力」と「住む魅力」の間に大きなギャップがあることです。だからこそ、これからの政策は、会社を誘致するといった「働く場」づくりだけでなく、「ここに住みたい」「家族とずっと暮らしたい」と思ってもらえるような、生活環境の質を高めることに、もっと力を入れなければならないのです。
表1:横手市の人口の移り変わり(平成元年度~令和6年度)
出典:横手市 住民基本台帳人口
表2:近隣の主な市との人口の動きの比較(2020年国勢調査)
出典:昼間人口比率(2020年)上位20市区町村 – 秋田県
2.なぜ人口は減り続けるのか? – 2つの大きな理由
人口が増えたり減ったりするのは、「社会減(人の移動)」と「自然減(生まれる人と亡くなる人の差)」という二つの要因で決まります。横手市の人口減少は、この両方で深刻な問題を抱えています。この章では、それぞれの理由をデータで詳しく見ていき、その裏にある根本的な課題を明らかにします。
2.1. 「社会減」の仕組み:若者が街を離れる理由
2.1.1. 産業と雇用のミスマッチ
横手市から出ていく人が入ってくる人を上回る「社会減」。その一番の理由は、若い世代、特に高校や大学を卒業した人たちが市外へ出て行ってしまうことです。その根っこには、地域の産業と若者たちが求める仕事との間に、ズレが生じていることがあります。
令和2年の国勢調査によると、横手市で働く人の産業別の割合は、農業などの第一次産業が14.7%、製造業などの第二次産業が25.1%、サービス業などの第三次産業が59.4%です 。全国平均と比べると第一次産業の割合がとても高く、農業の生産額は県内トップクラスを誇るなど、農業が市の中心的な産業であり続けています 。一方で、ハローワーク横手管内の有効求人倍率(仕事を探す人一人あたりに何件の求人があるかを示す指標)は、県内の他の地域と比べて低い水準が続いており、仕事を探す人にとって魅力的な選択肢がたくさんあるとは言えない状況です 。
このデータが示しているのは、市の経済は伝統的な農業や製造業に大きく頼っている一方で、今の若者たちが就きたいと考える情報通信、専門・技術サービス、企画・マーケティングといった分野の仕事が比較的少ないのではないか、ということです。特に、いろいろなキャリアを積みたいと考える女性にとっては、その選択肢はさらに限られてしまうかもしれません。この「雇用のミスマッチ」こそが、若者たちが夢や希望を求めて市外、特に大都市圏へと出て行ってしまう大きな原因となっているのです。
2.1.2. 暮らしやすさの課題
仕事の問題に加えて、日々の生活のしやすさも、若者や子育て世代が横手市に住み続けるのをためらわせる要因になっています。「横手市まちづくりアンケート」では、市民から「バスや電車が少なくて不便」「車がないと生活できない」といった切実な声がたくさん寄せられています 。
平成17年の合併で市域がとても広くなった横手市では、自家用車に頼りすぎる生活が、短期的には便利かもしれませんが、長い目で見ると多くの問題を生みます。中心市街地のお店は元気をなくし、免許を持たない、あるいは返納した高齢者や、車を持たない若い世帯といった「交通弱者」は、買い物や病院に行くといった当たり前の生活さえ難しくなってしまいます。この「生活のしにくさ」は、市外へ引っ越す直接的なきっかけになったり、市外から引っ越してくるのをためらわせる大きな壁になったりしています。市もこの問題をわかっていて、公共交通の維持や中心市街地に機能を集める計画を立てていますが 、市民が「便利になった」と実感できるまでには至っていないのが現状です。
2.2. 「自然減」の背景:生まれる子どもが少ない根本原因
2.2.1. 結婚・出産・子育てを取り巻く環境
亡くなる人の数が生まれる人の数を上回る「自然減」も深刻になっています。全国的に生まれる子どもの数は過去最少を更新し続けており 、横手市もこの大きな流れから逃れることはできません。市の計画でも、「出生数」や「婚姻率」は目標に届いていない状況です 。
経済的な不安、保育園が足りない、あるいは質の問題、そして仕事と子育ての両立の難しさなどが、若者たちが出産をためらったり、希望する数の子どもを持てなかったりする背景にあるのは、全国と同じです。待機児童問題は全国的に少しずつ解消されていますが、それは少子化で需要が減った影響も大きく、特に希望が集中する1・2歳児の受け皿や、病気の子どもを預かる保育サービスなど、多様なニーズへの対応は、まだまだ多くの地域で課題となっています 。
しかし、横手市の自然減の問題をより深刻にしているのは、こうした子育て環境の問題に加えて、先ほどお話しした「社会減」との悪循環です。社会減と自然減は、別々の問題ではなく、お互いに影響し合って、問題をどんどん大きくしてしまう「負のスパイラル」になっているのです。
このスパイラルの仕組みは、次のようになっています。
- (社会減) 市内に魅力的な仕事や暮らしの環境が少ないため、高校や大学を卒業した若者、特にキャリアを築きたい女性が市外へ出て行ってしまいます。
- (人口構造の変化) その結果、市内に住む、結婚や出産をする年代である20代から30代の女性の「数」そのものが、決定的に少なくなってしまいます。
- (自然減の深刻化) 生まれる子どもの数は、女性の数に、一人の女性が産む子どもの数の平均(出生率)をかけて計算されます。たとえ市内に残った女性の出生率が全国平均と同じくらいでも、母親になる可能性のある女性の数が減れば、市全体で生まれる子どもの数は必然的に減ってしまいます。
- (スパイラルの加速) 生まれる子どもが減ると、学校の統廃合や小児科の閉鎖、子育て関連サービスが少なくなるなど、子育て環境がさらに悪化します。これが、市内に残っている子育て世代が市外へ出ていくことを後押しし、さらなる社会減と自然減を招いてしまうのです。
この悪循環を断ち切らない限り、ただ子育て支援を充実させるだけでは、自然減に歯止めをかけることはできません。その大前提として、若い女性を市内に惹きつけ、定着させるための魅力的な仕事づくりと生活環境の整備、つまり「社会減対策」を強力に進めることが絶対に必要です。社会減対策と自然減対策は、どちらか片方ではなく、車の両輪のように、同時に、そして一体となって進めていかなければならないのです。
3.市のこれまでの取り組み、成果と課題は?
この章では、市が今進めている人口減少対策「第2期横手市まち・ひと・しごと創生総合戦略」について、その成果を目標(KPI)がどれだけ達成できたかという数字で客観的に評価し、うまくいっている点と、改善が必要な点を探っていきます。
3.1. 目標達成度を数字でチェック
市の総合戦略では、計画がうまく進んでいるかを確認するために、いくつかの目標(KPI)が設定されています 。公表されているデータをもとに、主な目標の達成状況を見てみると、うまくいっている点と、これからの課題が見えてきます 。
移住促進に関する目標、例えば「市のサポートで移住した世帯数」は目標12世帯に対して実績10世帯と、目標に近い数字になっています。また、「社会増減(転入と転出の差)」も目標マイナス359人に対して実績マイナス401人と、まだ出ていく人の方が多いものの、ある程度の歯止めはかかっているように見えます。これらの数字は、市が行っている移住相談や情報発信といった取り組み が、一定の成果を上げていることを示しています。
一方で、地域の中心的な産業や、人口の未来に直接関わる目標は、残念ながらほとんど達成できていません。中心産業である農業の元気を示す「農業産出額」は目標316億円に対して実績296億円と届いていません。さらに深刻なのは、人口の未来を左右する「出生数」(目標415人に対し実績395人)や「婚姻率」(目標2.995‰に対し実績2.940‰)が、どちらも目標を下回っている点です。
3.2. 成果と限界:何がうまくいき、何が足りないのか
これらの目標達成状況を全体的に分析すると、今の市の政策が抱える根本的な課題が見えてきます。それは、個別の政策が「点」としては成功していても、地域全体という「面」での課題解決にはつながっていない、というギャップです。
市は、移住者という「新しい水をバケツに注ぐ」ことには、ある程度の成功を収めています。これは評価すべき成果です。しかし、その一方で、若者の流出や出生数の低迷という「バケツに空いた穴」を塞ぎきれていません。結果として、注いだ水(移住者)が、穴から漏れ出る水(転出者と自然減の合計)を打ち消すことができず、バケツ全体の水位(総人口)は下がり続けているのです。これは典型的な「漏れのあるバケツ」問題です。
この状況が示しているのは、現在の政策が、外から新しい人を呼び込む「獲得」に比較的重点を置いている一方で、地域の中にいる住民、特に未来を担う若者や女性を惹きつけ、定着してもらう「維持・育成」という視点が相対的に弱いということです。移住者を呼び込むという対症療法だけでは、人口減少という根本的な病気を治すことはできません。これからは、政策の重点を、根本治療である「定住したくなる魅力的な環境づくり」へと、大胆に切り替える必要があります。
3.3. 政策の連携はうまくいっているか?
「まち・ひと・しごと創生」という戦略の名前が示すように、本来これらの政策は、お互いに連携し、相乗効果を生み出すべきものです。例えば、企業誘致(しごと)で生まれた雇用が、子育て支援(ひと)や公共交通の整備(まち)と一体になることで、初めて若者・子育て世代が「ここに住み続けたい」という成果につながります。
しかし、現状の目標達成状況からは、それぞれの取り組みが個別の目標を追いかけ、縦割りで進められている印象を受けます。例えば、ICT技術の活用目標 が、どのようにして若者の仕事づくりや高齢者の生活の利便性向上に具体的に結びついているのか、その連携のストーリーが見えにくいのです。政策同士の連携を強め、市民一人ひとりの人生のステージやニーズに合わせた総合的なパッケージとして提供していく視点が、これからますます重要になります。
表3:「第2期横手市まち・ひと・しごと創生総合戦略」目標達成状況の評価
出典:地域再生計画 のデータを基に作成。実績値は令和3年度時点。
4.未来の横手市をつくるための4つのアイデア
これまでの分析と評価をもとに、人口減少の悪循環を断ち切り、持続可能な地域社会をつくるための具体的な政策パッケージを、4つの柱に沿って提案します。
4.1. アイデア1:『稼ぐ力』を取り戻す – 地域経済の元気を取り戻そう
4.1.1. 中核産業(農業・製造業)をパワーアップさせる
農業の生産額が伸び悩んでいるという課題 に対応し、地域の経済を強くするため、今ある産業の競争力を根本から高める必要があります。
- スマート農業特区をつくる: ICTやドローン技術を積極的に使う農業法人などを重点的に支援する特区を設けます。これにより、生産性を飛躍的に高め、「儲かる農業」のモデルをつくります。若者が魅力に感じる法人経営への移行を促し、安定した雇用を生み出します。
- 「横手ブランド」を磨き直す: かまくらや発酵文化といった地域ならではの宝物を最大限に活かし、農産物の加工・販売(6次産業化)を徹底的にサポートします。特に、ふるさと納税の返礼品開発と連携させ、首都圏の富裕層などをターゲットにした高級感のある商品の開発と販路開拓を戦略的に進めます。
- 製造業のデジタル化を強力にサポート: 市内の中小製造業に対し、IoT導入による生産ラインの効率化やデジタル技術を使った新製品開発を支援します。専門家を派遣したり、設備投資への補助を手厚くしたりすることで、企業の生産性を高め、それが従業員の給料アップにつながる良い循環をつくります。
4.1.2. 新しい仕事の受け皿を育てる
若者が求める仕事とのミスマッチを解消するため、新しい産業の芽を育てます。
- サテライトオフィス誘致をレベルアップ: ただオフィスを用意するだけでなく、「農業のデジタル化」「高齢者向けヘルスケアサービス開発」といった地域の課題解決プロジェクトを市が主導して立ち上げ、その解決に貢献できる専門性を持った都市部の企業に参加を呼びかけます。これにより、市のICT関連の目標 達成を加速させるとともに、質の高い雇用をつくります。
- ヘルスケア産業を集める: 高齢化率の高さを逆手にとり、横手市を「最先端の高齢者向けテクノロジー(エイジテック)の実証実験の場」として位置づけます。介護・福祉、予防医療、リハビリ関連の研究機関や企業を積極的に誘致し、地域の豊富な医療・介護データ を活用した共同研究開発を進めます。
4.2. アイデア2:『選ばれるまち』になる – 移住・定住を次のステージへ
「漏れのあるバケツ」問題を克服し、移住してきた人たちに確実に定住してもらうため、PR方法と受け入れ体制を新しくします。
- ターゲットを絞った戦略的PR: これまでの誰にでも向けた情報発信から、「農業や食に関心がある人」「ICT技術者」「医療・福祉の専門家」といった、市内の産業と相性の良い特定の人たちにターゲットを絞ります。専門誌や業界のイベントなどを通じて、ピンポイントで横手市の魅力を伝えます。
- 「関係人口」を増やし、二地域居住を推進: 移住という高いハードルだけでなく、まずは副業やワーケーション、ふるさと納税などを通じて横手市と継続的に関わってくれる「関係人口」のファンを増やすことに力を入れます。空き家を改修した短期滞在型のシェアハウスやコワーキングスペースを整備し、都市部の人材が気軽に地域のプロジェクトに参加できる機会を提供します。
4.3. アイデア3:『次世代を育む』社会をつくる
出生数や婚姻率の低迷 という根本的な課題に対応し、若者や女性が未来に希望を持てる社会をつくります。
- 経済的支援と保育の質を両立させる子育て支援: 子育て世帯が経済的な不安なく「もう一人子どもが欲しい」と思える環境を整えるため、第2子以降の保育料完全無償化や、高校卒業までの医療費無償化といった大胆な経済的支援を検討します。同時に、共働き世帯のニーズが高い病児保育や休日・夜間保育の体制を充実させ、サービスの質を高めます。
- 若者と女性が輝ける社会環境をつくる: 女性の起業支援 をさらに強化し、地域のロールモデルとなる女性起業家を育て、発信します。また、市内の企業に対し、女性管理職の割合や男性の育児休業取得率に応じてインセンティブを与える制度を導入し、会社の雰囲気の変革を後押しします。これが、若い女性の流出を防ぎ、定着を促す最も効果的な自然減対策となります。
4.4. アイデア4:『暮らしの質』を高める – 全ての世代が安心して住み続けられる地域へ
公共交通の不便さ を克服し、誰もが快適に暮らせる生活の基盤を整えます。
- ネットワーク型コンパクトシティと新しい公共交通: 市の都市計画 に基づき、横手駅周辺と各地域(旧町村)の中心地に医療・福祉・商業機能を集めるように誘導します。そして、これらの拠点と拠点を効率的につなぐ新しい交通手段として、従来の路線バスを補う「AIを活用したオンデマンド交通」を本格的に導入します。これにより、高齢者の「移動の足」を確保するとともに、若者にとっても車に頼らない生活スタイルを可能にします。
- デジタル技術で行政・医療・生活サービスを便利に: オンラインで完結する行政手続きの範囲を広げるほか、かかりつけ医と連携した遠隔健康相談サービスの導入、移動販売車と連携したデジタル注文システムの構築などを進めます。市のICT活用目標 と連動させ、デジタル技術を駆使することで、広い市域に点在する住民に対し、質の高い公共サービスを効率的に提供する仕組みを構築します。
人口減少を乗り越え、新しい価値を生み出す横手市へ
ここまで見てきたように、横手市の人口問題は、「人の流出(社会減)が、生まれる子どもの減少(自然減)を加速させる」という、深刻な悪循環に陥っている根深い問題です。若者、特に女性が魅力的な仕事と暮らしの環境を求めて市外へ出て行き、その結果として地域の出生数が減り、さらに地域社会の活力が失われていくという連鎖が続いています。
市がこれまで進めてきた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、移住者を呼び込むという「入口」の対策では一定の成果を上げてきました。しかし、人口減少の根本原因である「若者・女性の定着」と「出生数の回復」という、より本質的な課題の解決には、まだ十分につながっていません。バケツの穴を塞がずに水を注ぎ続けるだけでは、人口減少の流れを変えることはできないのです。
このレポートで提案した4つのアイデア―「稼ぐ力の再構築」「選ばれるまちへの転換」「次世代を育む社会基盤の強化」「暮らしの質の向上」―は、この悪循環を断ち切り、持続可能な地域社会を再び築くための総合的なアプローチです。これらの取り組みは、バラバラに行うのではなく、お互いに連携させることで初めて最大の効果を発揮します。
人口減少は、もはや避けることのできない現実です。しかし、それをただの脅威として受け身で捉えるのではなく、これまでの社会や経済の仕組みを見直し、住民一人ひとりの暮らしの質(QOL)を高めるための「変革のチャンス」と捉える、考え方の転換が求められています。人口の「量」を追い求める時代から、地域社会の「質」を高める時代へ。その大胆な一歩を踏み出すことこそが、未来の横手市への最大の投資となるでしょう。